栃木県立高校のいじめ動画流出問題

いじめ・ハラスメント

年が明けて、X(旧ツイッター)上で、いくつかのいじめ動画が配信・拡散されました。その中でも、男子トイレ内で2人の男子生徒が殴りあうようなものが広く解散されており、栃木県の県立高校で起きたいじめ事件であることまで特定されてしまいました。
動画そのものや顔が鮮明な画像を上げると様々な問題が生ずるので、加工させていただきました。この加工された元動画を見ると、男子生徒が1対1でケンカしている模様を記録していたように見えますが、実は向かって右側の生徒は当初から戦意を喪失しており、左側の生徒が一方的に殴っていて、しかも周囲には数人の男子生徒が囃し立てているような様子が散見されました。

この画像はツイッター上で拡散されている動画をキャプチャし、加工したもの

一般に、この手の「いじめ動画」は、長い動画の一部を切り取って投稿された可能性もあり、さらには「イタズラ」「ドッキリ」的な要素の強いフェイクの可能性もあります。また、実は攻守が逆で、一方を執拗に挑発した末の反撃だったなど、この動画だけで判断してしまうと誤った印象を受けてしまう可能性もあるため、専門家を自称する人であればあるほど、考察を述べることに躊躇してしまいます。

ただ、私は昭和の、いわゆるヤンキー文化の中で、「いじめられっ子」のひとりとして苦しい小中高の学校生活を生き抜いてきたので、明らかな「いじめ」と映りました。

暴力的な生徒が非暴力的な生徒を殴る時の正当化手段

この動画を見ると、二人ともファイティングポーズを取っています。その部分だけ見れば、いわゆる「タイマン」であり、しかも素手による決闘なのだから、これは男の子同士の、正々堂々としたケンカであって、ケンカ両成敗とすべき。両方とも悪い。だから大人は介入すべきではないと評価することもできます。

しかし、よく見てみると、向かって右の生徒は当初から戦意を喪失しており、左の生徒の殴るまま、蹴られるままに任せています。素人目に見ても、適度に防御して、隙を見て殴れば勝てるようなぬるい暴力です。つまり、相手をノックアウトするようなケンカではなく、出血や骨折をしない程度の暴力です。しかも右の生徒は手を出していない。なぜ反撃しないのか、私は経緯が簡単に説明できます。
昭和の中学生だった私の表現なので、昭和っぽいのはご容赦ください。

1.ファイティングポーズを取らせることで「対等なケンカ」を演出
こういういじめが起こる前提として、暴力的な男子がおとなしい同級生に因縁をつけます。まずはターゲットの生徒を軽く小突いたり、文房具を取り上げたりして、小さな小競り合いを起こすのです。そしてターゲットが不愉快な表情をしたところで、「文句があるならタイマンだ」と、トイレに連れてきます。ここでやる気のない姿を見せれば「つきあいが悪い」「ノリが悪い」「陰キャ」みたいに罵り、蹴ったり、更に嫌がらせをします。なにひとつとして生産性のない暴力や嫌がらせに付き合いたくなどないのだけれど、同調圧力や更なる嫌がらせに恐怖を抱いた被害者は、このじゃれあい風の暴力に付き合います。そして正々堂々のケンカであることの証拠として映像を残し、ファイティングポーズを取らせます。

2.本気で反撃したら報復される
動画を見ると、左の生徒は右の生徒を強く殴打している場面もあり、頭部に蹴りを入れてもいます。大人の世界であれば、暴行事件であることは明白なので、この時点で通報してもいいし、ここまでやられているなら被害者生徒が反撃したっていいはずです。例えば、相手の下半身にタックルして両足をつかんで床に倒し、抑え込むくらいの反撃は許されれます。しかし、この動画の場面でそのようなことをしたらどうなるか。間違いなく撮影者やその仲間に報復されます。更に被害者が反撃したことを殊更にとらえ、「ただふざけていただけなのに、本気で殴られた」と批判するというのが簡単に想像できます。そして次のいじめの正当化の理由に使われるのです。

3.いじめられる側は「少し殴らせれば気が済むだろう」というあきらめ
私は執拗ないじめを受けた経験者だから、あの頃を思い出せば、右側の生徒の気持ちがよくわかります。簡単に言うと、親や教師に告げ口をしても解決しないのです。
例えば私の親は、私に対し「絶対に暴力を奮うな」という指導をしてきました。理不尽に殴られたから反撃したところで、それを上回る力で反撃されたら、どちらかが死ぬまで終わらないし、反撃をして相手に致命傷を与えたり、更に恨みを買って自分が殺されるくらいなら、いじめは我慢せよという理屈です。
私は小学校5年生の時、担任の教師に相談したこともあります。教師はいじめ加害者を呼んで「二度といじめをしないように」と、口頭注意するしかありせん。だって出血も骨折もしていないから、本気で動かないのです。暴力を10段階で評価するとして、アザとか傷ができるものを6以上と考えたとき、2とか3程度の暴力をいちいち取り締まる訳にもいきません。しかし、その2とか3の暴力を、1か月間、毎日10回ずつやられたらどうなるか。現場を1回だけ見れば、「ちょっと殴っただけ」なので、子どものケンカを深刻に捉えて双方の親を呼ぶとなると仕事が増えます。だから口頭注意で終わります。10回殴られても、11回目があると思えば憂鬱です。今日はどうにか乗り切っても、明日殴られると思えばやはり憂鬱です。そこで致し方なく、教師への告げ口です。
一方、告げ口をした私は、次からは卑怯者呼ばわりをされます。いじめるべき理由がひとつ増えます。そして出血・骨折に至らない程度で殴れば「おとがめ無し」という前例を与えてしまったので、いじめは継続します。
こんな私の経験からいえば、動画の被害生徒が「いちおうケンカに付き合って、少し殴らせてやれば気が済むなら、そして俺が少し我慢すればそれ以上の嫌なことは起きない」という判断になるのは理解できます。

被害者・保護者・教師はどう対応すべきだったのか

今回の栃木県の事件は、嫌がらせや正当化のつもりで撮影した動画が存在し、それを誰かがSNSにアップロードしたことで決め手となって問題が露呈しました。こうした動画は、「バカッター」と呼ばれる動画と同様に、投稿されてはならないはずの「いじめ動画」です。おそらく、撮影者・投稿者はいじめ被害者を貶めるため、被害者を不快な気持ちにさせるためにアップロードしたつもりだったはずです。
ところが、明白な暴行の証拠動画として指摘されたり、炎上したりするとは想像もつかなかったと思います。幸か不幸か、これがきっかけで加害者を処分することができた訳です。

さて、今回のような一方的な暴力による、明白ないじめに対し、どのように対策すべきだったのでしょうか。被害者・保護者・教師(学校)がとるべき解決策を提示しておきます。

1.被害者(生徒)は、保護者・教師・警察に通報せよ
今回のような明白な暴行であれば、その直後に110番へ通報すべきです。
ただ、今回のような暴行に至る前段階として、もう少しソフトな、軽めの暴行があったはずです。頭を小突くとか、軽く蹴る、胸ぐらをつかんで壁に押しつける等です。外観は「暴行」ではなく、ふざけ合っているようにも見える行為の場合、警察へ持っていくには難しい程度のいじめです。
しかし、こうした軽めの暴行を許していくと、加害者は「どこまでの暴行なら反撃しないか」を見定めるために、少しずつエスカレートさせます。10段階で6以上が「客観的に暴行」だとすれば、ふざけ合いで済ませられる「5」の暴行を探るのです。しかし、1か2の段階で保護者や教師に通報し、加害者にきちんと注意がなされれば、それ以上エスカレートすることはありません。
告げ口することを「チクった」などと表現して、卑怯者呼ばわりする加害者もいますが、「卑怯者呼ばわり上等、チクられるような暴行をする方が卑怯だ」という態度で対峙すべきです。

2.被害者に相談された保護者は、教師と情報共有すべき
「学校内で起きた生徒同士のケンカに親が口を出すのは過保護ではないか」という考え方は理解できます。しかし、子どもは判断が未熟だからこそ子どもです。子どもが愚かな行動をとってしまった時は、我が子であろうと、他人であろうと、注意・警告すべきです。何も相手の子どもや親に暴力的に文句を言いに行けということではなく、冷静に「子ども同士のこのようなやり取りの中で、暴行があったようで、どうやら一方的にA君が殴ってきたようだ」ということを、教師と情報共有しておくべきです。

3.情報を収集した教師は、生じた問題を可視化・情報共有する
いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)」という法律があります。ここには例えばこんな条文があります。

(いじめに対する措置)
第23条 学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。

この法律によれば、教員も保護者もいじめの事実を認めた時は、通報ないし適切な措置をとるものとしています。
つまり、これはいじめの早期発見・早期解決を促す法律なのです。

法律があるのにいじめが増加の一途なのはなぜか

文部科学省の調査によれば、いじめの認知件数はこんなに増えています。平成24年ごろは年間20万件程度だったいじめの認知件数が、令和元年には3倍増の60万人超えです。

そして令和6年度のいじめ認知件数は76万件となっています。いじめ防止対策の法律ができたのに、こんなにいじめが増えている。これは大問題だと考える人も多いと思います。しかし、それは早計です。この法律ができたことと、いじめそのものの定義が軽いものも含むようになったため、暴力等だけではなく、悪口として「バカ!」と相手を罵る行為も1件としてカウントするようになったのです。
病気治療でいえば、定期的な健康診断を行うようになったため、進行前の病気を早期発見することができたので、病気疑いの数は多くなってしまったけれど、早期の治療で生存率を上げることができたというイメージです。
つまり、現実に早期発見の試みが年76万件という数字に現れているのは、効果が認められたという証左といえます。

栃木県立高校の男子生徒は書類送検となった

学校内で起こった暴力事件が警察沙汰になるというのは、教育施設を運営する側としては苦渋の決断だったかもしれません。しかし、大切なのは、「結果として理不尽な暴力から生徒を守ること」です。いくら学校であっても、それが未成年者の行ったことであったとしても、暴力事件は警察マターであります。そんな中、加害者の男子生徒を傷害容疑で書類送検したとの報道がありました。

読売新聞2026年2月6日配信の記事より

退学処分が妥当か否か

かつていじめ被害者であった私からすれば、「トイレに呼び出し、格闘技の遊びを装って暴行する」といういじめは、卑怯極まりない悪質ないじめです。私が被害者本人や保護者であれば、あのような動画が出回った以上、退学を求めます。逆にいえば、ここまであからさまな暴行事件を起こしておきながら、高校に在学させるという選択肢はありません。警察沙汰になっていなかったとしても、退学という選択肢を検討すべき重大事案だし、加害者に損害賠償請求を行うことも視野にいれるべきです。
一方、私が加害者の保護者であるなら、同級生にこのような暴力を奮ってしまった以上、この学校で学ぶことをあきらめるべきと加害者を諭します。自主退学をさせます。コミュニティ内で倫理に反する行為を行ったら、そのコミュニティを追われるのは、集団生活の掟のようなものです。もし彼が反省するのであれば、再チャレンジの道を与えることもできます。通信制高校や高卒認定試験という制度を活用すべきでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました